栃木県 那須塩原市 渡辺 美知太郎 市長
プロフィール
慶應義塾大学を卒業後、会社員を経て、2012年12月から衆議院議員秘書に。2013年7月に参議院議員選挙に当選。2018年10月から財務大臣政務官を務める。2019年4月に那須塩原市長に就任。
株式会社ライスレジン 代表取締役COO 奥田 真司
プロフィール
2006年に野村證券株式会社に新卒入社。富裕層向けのリテール業務や上場企業などの法人向けコンサルティング業務を経て、戦略企画業務に従事。2020年5月より、バイオマスレジングループに参画。バイオマスレジン南魚沼 取締役副社長に就任した後、2022年4月に社長執行役員に就任。2024年より株式会社ライスレジン 代表取締役COOに就任。

産出額全国2位を誇る生乳や高原野菜の生産が盛んな栃木県那須塩原市。観光業にも力を入れており、豊かな自然環境の保全活動にも積極的に取り組んでいます。今回は、那須塩原市 渡辺市長とライスレジン代表取締役COO 奥田が「那須塩原市の農業と環境政策」をテーマに、対談しました。
成長産業である農業が抱える、新たな課題
那須塩原市は全国でも有数の農業地帯。特に生乳生産が盛んで、本州では唯一ベスト10位以内にランクインしています。一方で、農家全体の数は5年間で12%減少。大型農業を手がけるメガファームにより、農業産出額は20%増えているものの、さまざまな課題にも直面してきました。
奥田:対談前に那須塩原市内を自分の目で見て、観光業とともに、農業も重要な産業であると感じました。まずは、農業が直面している課題について教えてください。
渡辺市長:数字だけを見ると生産額は順調に伸びているため、成長産業ではあるのですが、農家の数自体は減少しています。最近の課題は農家の高齢化や耕作放棄地の増加、そしてメガファームでの疫病問題です。また米作りに関しては担い手の減少が見られます。この辺りは明治時代に開拓団が水路を作り、ようやく農業ができるようになった土地です。米作りを推奨するために国家規模で疏水に当たった歴史がありますが、今ではあまり活用されていないのが現状です。新規で就農される若い方は米よりも、アスパラガスやいちごの生産を選んでいるんですよね。アスパラガスはビニールハウスが3〜4棟あれば、十分収益が出せるようになります。米よりも付加価値の高い作物を選んで農業にチャレンジしている方が多いということでしょう。
米作りを推奨するために国家規模で疎水に当たった歴史があったものの、時代の流れに伴って「農業を取り巻く状況」は大きく変わったと言えそうです。

環境問題への取り組みがもたらした街の変化
世界全体が高温化し、環境が大きく変わりつつある中で那須塩原市はどのような環境政策に取り組んでいるのでしょうか。
奥田:環境問題については、避けては通れない社会課題だと思っています。那須塩原市はゼロカーボンシティ宣言をされていますが、どのような取り組みを実現されているのでしょうか?
渡辺市長:環境問題への取り組みは、那須塩原市の付加価値を高め、街のブランド力を引き上げていくことにもつながると思っています。例えば、全国で最初に気候変動適応センターを設立。民間企業との連携を進め、気候変動に適応していくための施策もスタートさせています。2018年には「2050年CO₂排出量実質ゼロ」(ゼロカーボン)宣言を行いました。市役所内でも各部署が「環境問題」への視点を意識した施策に取り組んでおり、道路課では街路灯のLED化、学校教育課では環境教育、産業観光部ではゼロカーボン化の推進などを行なってきました。
奥田:それはユニークな取り組みですね。全部署が環境への想い、街への想いを大切にしながら取り組んでいることが伝わってきます。そんな中で、最も力を入れてきた施策は何ですか?
渡辺市長:サステナブルビジョンの策定です。課の名前も「サーキュラーエコノミー課」「ネイチャーポジティブ課」「カーボンニュートラル課」に変更し、環境問題に本気で取り組むことにしました。サーキュラーエコノミー(循環社会への移行)は、廃棄物対策が中心。ネイチャーポジティブ(生物多様性の回復)は、自然環境を扱う仕事を担当しています。カーボンニュートラル(脱炭素社会の実現)も含めた3つの課が一緒になれば、今までになかった新たな観点で環境問題と向き合えるでしょう。実際に、日光国立公園と那須野ヶ原をイメージしたTシャツを、裁断くずを活かした100%アップサイクル生地で製作。オフィスの服装改革として活用していただき、Tシャツの売上の一部は「国立公園に寄付」できるようにして、相乗効果を狙っています。

他にも、国体の会場となった際にはトライアスロン競技をゼロカーボンで行うことにチャレンジ。ごみの減量化や分別、省エネ対策ももちろん大切ですが、ワクワクできる工夫を多く盛り込んでいる点が、印象的でした。
「おもしろそう」という直感が行動を変える
サーキュラーエコノミーの話題から発展し、ライスレジンが手がけている事業についても議論がなされました。初めて渡辺市長がライスレジンの存在を知ったきっかけは「地元のお祭り」。2023年、地元の那須拓陽高校と、ソフトバンクの子会社であるSBプレイヤーズ株式会社が連携協定を結び、「持続可能な農業の実現と人材育成を目指したプロジェクト」を進めていました。その一環で開催されたお祭りの場で、ライスレジンのカトラリーが使用されていたのです。
渡辺市長:当時、私個人としても脱プラスチックに関心があったので「おもしろそう」だと思いましたね。
奥田:まずは興味を持っていただき「おもしろそう」と感じていただくのは、大切ですね。そうすると意識が変わり、行動も変わるかもしれません。
渡辺市長:そうですね。環境政策は、一般的にはあまりなじみがないものが多いです。「きれいごとじゃないか」と思われてしまうこともあるでしょう。それでもカーボンニュートラルは経済的なメリットが大きいですし、企業誘致にもつながります。そして何より、資源循環に参加することで“楽しさ”を味わえる。経済的な恩恵や楽しさを伝えていくのも、大切だと思うんです。農業地帯である那須塩原市にとって「お米で作ったごみ袋」の導入が実現できれば、関心が高まり、環境保全のための行動変容の可能性も見えてくるのではないでしょうか。
市民1人ひとりが我慢するのではなく、あくまで楽しく環境施策を推進すること。それが、全国に先駆けたチャレンジを続けていくモチベーションにもつながっていきそうです。
資源循環がもたらす新たな価値の可能性
最後に、ライスレジンと那須塩原市が連携した未来のビジョンについて語りました。以前から資源循環について、さまざまな取り組みをしてみたいと考えていた渡辺市長。那須塩原市に移住してきた市民から「生ごみを自宅の庭で堆肥化できて楽しい」と聞き、驚いたそうです。自分たちで資源を循環できることが「ここに住みたい」と感じる魅力になるのだと、改めて実感したと語っていました。
奥田:今後、当社と連携するとしたらどのような未来を描きたいですか?
渡辺市長:資源循環を実現した先に、どのように還元できるのかという「イメージ」を一緒に作っていきたいですね。サーキュラーエコノミーはまだまだ手探りの部分が大きいので、ぜひ一緒にデザインしていければ嬉しいです。レジ袋は身近な存在ですし、イベントでのカトラリー活用や、ライスレジンでできたお弁当箱も良いかもしれません。多くの人にまず、知っていただくところから始めたいですね。
奥田:我々の想いも同じです。導入をきっかけに、未来に向けたストーリーを共に語りながら貢献していきたいと考えています。

対談を終えて
那須塩原市は、5年連続転入超過を記録した街としても有名です。その理由の1つが、環境政策を「街のブランド力向上」と結びつけてきたことなのだと、対談を通じて実感しました。新たな挑戦に向けて尽力する那須塩原市は、多くの成功事例を生み、最終的に多くの人から選ばれる地方都市へと成長しています。今後も成長産業である農業に真正面から取り組みつつ、環境政策を“呼び水”に魅力的な街づくりを目指す中に、ライスレジンも積極的に関わっていければと思います。