北海道 石狩郡 新篠津村 石塚 隆 村長
プロフィール
北海道旧・上湧別町(現・湧別町)出身。10歳で新篠津村へ移住し、稲作を営んできた。村議会議員を経て、2017年に村長選に立候補し、初当選。2025年には3期目を務めることとなった。「田園福祉の村」をキャッチフレーズに掲げ、福祉・農業・地域づくりを重視した政策実現を目指している。
株式会社ライスレジン 代表取締役COO 奥田 真司
プロフィール
2006年に野村證券株式会社に新卒入社。富裕層向けのリテール業務や上場企業などの法人向けコンサルティング業務を経て、戦略企画業務に従事。2020年5月より、バイオマスレジングループに参画。バイオマスレジン南魚沼 取締役副社長に就任した後、2022年4月に社長執行役員に就任。2024年より株式会社ライスレジン 代表取締役COOに就任。

北海道新篠津村は石狩平野の中心部に位置しており、豊かな水と肥沃な大地に恵まれた田園風景が広がっています。米、小麦を中心に豆類、野菜、花き栽培が盛んで、特に米づくりは村の基幹産業となっているそうです。農家のおよそ8割が稲作を手がけ、安心・安全・環境に配慮した有機栽培を行っています。今回は新篠津村 石塚村長とライスレジン代表取締役COO 奥田が「農業政策とこれからの課題」をテーマに、対談しました。
ゼロカーボンを目指し、美しい田園風景を守る
村の中心部には福祉施設や養護学校などが集まっており、「田園福祉の村」として助け合いの精神を大切にしている新篠津村。農業に力を入れていることを多くの人に伝えようと、北海道道央エリアの市町村が連携した「グリーンツーリズム」に参加しています。グリーンツーリズムを通じて、都市部の中高生が農業を体験し、食の大切さを学ぶ機会を提供。他にもスマート農業の実証実験や、若手就農者の育成にも力を入れています。また天然温泉やわかさぎ釣りなどの観光資源にも恵まれており、「農業・環境・観光」を複合的に組み合わせたまちづくりにもチャレンジしています。
奥田:今はちょうど稲刈りが終わり、美しい田園風景が楽しめる時期です。ここに来るまでにも、車窓から素晴らしい景色が広がっていました。村長ご自身も農業を手がけていらっしゃるとお聞きしました。私たちはお米をアップサイクルし、地球環境に優しい素材を作っています。まずは「環境問題」について、新篠津村が取り組んでいることについて教えてください。
石塚村長:新篠津村の基幹産業は「農業」です。だからこそ農業を活かした上で、ゼロカーボン実現に向けた施策に取り組んでいます。 例えば農作業には積極的にICTを導入し、農作業の自動化・省力化を進めています。昨年〜今年にかけて、水稲栽培で欠かせない「中干し※」によってメタンガスの排出を抑えようと、1000ヘクタール規模で実施しました。またドローンの活用やGPS付きトラクターの導入も積極的に行っています。若手の農業者が参加しやすく、かつCO2削減につながる仕組みを整えています。
奥田:それは素晴らしいですね。ゼロカーボンを目指す上での「課題」は何でしょうか?
石塚村長:北海道の厳しい冬を乗り越えるために欠かせないのが、暖房器具と車です。ボイラーで部屋の中を温めるのでCO2排出量がどうしても増えてしまいますし、ほとんどの方は公共交通機関よりも車移動を選ぶでしょう。だからこそ1人ひとりが「室内温度を1度下げよう」と意識し、北海道の気候と上手に付き合いながらゼロカーボンを目指していくことが大切なのではないかと考えています。
※中干し:出穂前に一度水田の水を抜き、田面を乾かすこと。中干しを通常よりも7日間延長すると、土壌や肥料に含まれている有機物から出てくるメタンの発生量が3割減少される。

スマート農業の実現を阻む「お金の壁」
基幹産業が農業だからこそ、ICT活用による「持続可能な農業」を積極的に進めてきた新篠津村ですが、財政面への影響も決して小さくはなかったそうです。
奥田:ICT活用やCO2削減に向けた取り組みには、農家さんに対する財政面でのサポートも重要になってくるのではないでしょうか?
石塚村長:おっしゃるとおりです。すでに来年度に向けて、JAと協議しながらスマート農業への助成金支援をする計画を立ち上げています。現在は先進的な農家が国の補助を活用するケースが多いと思いますが、より広く普及させるためにはさらなる支援が必要になるはずです。スマート農業に欠かせない機器を揃えるには、やはりお金がかかります。一般的なトラクターを購入して自動運転機能を付けると、プラス200万円かかるんです。カーナビのように量産できれば価格は下がるのでしょうが、まだまだ普及までには時間がかかりそうです。
かつて600戸あった農家も、現在では230戸までに減少しつつあります。人手不足を補うには、効率化に向けたスマート農業への転換がカギになりそうです。そのためには、いかに経済的な支援を続けていくかが課題となっています。
農業の発展が、村の発展を支えてきた
実は石塚村長自身も、代々農業を営んできた当事者であり、農業に関する課題を身近に感じてきたバックグラウンドを持っています。奥田からは、農業に対する想いに関する質問が投げかけられました。
奥田:今回の対談で、一番お聞きしたかったのが「農業に対する想い」です。昨今、「令和の米騒動」という言葉が生まれるほど、お米に関する社会的な注目が集まっています。ある種の変革期でもあるのだと思いますが、石塚村長が当事者として感じていることをお聞かせください。
石塚村長:新篠津村にとって、農業の中心は米と麦です。大きな産業は農業しかありませんから、農業によって村の発展につながったという想いが強くあります。この辺りは元々「泥炭地」でしたので、決して良い環境ではなかったんです。しかし土地改良をしながら開墾し、現在のような美しい風景が見られるまでになりました。そうした基盤整備によって小麦、大豆、さらにはタマネギなどの野菜、花などの栽培もできるようになっています。とはいえ、やはりメインは水田。石狩川の恵みを受けた基盤整備を次世代にも継承し、生産量を高めていきたいですよね。そうして農家が豊かになっていけば、村もさらに発展していくのではないでしょうか。
奥田:米価の変動については、どのように感じていますか?需給の問題も含め、日本の農業はこれからどうなっていくとお考えでしょうか?
石塚村長:当然、米づくりがなくなることはないでしょう。現代は洋風化したと言いながら、結局は多くの人が、主食に“ごはん”を選んでいます。今回の米騒動は、需要と供給のバランスが崩れたことが原因だと私は考えています。今まではうまく調整できていた米価が、バブルのように高騰していますよね。これからは食用だけでなく、加工用、飼料用、輸出用などさまざまな用途のお米が必要になってくると思います。やはり国民の食をきちんと守り、国と連携して「食の安全保障」をすることはとても大切だと思うんです。
手間がかかる水稲よりも栽培しやすい「直播」を取り入れる農家も少しずつ増えてきており、米づくりも多様化しています。新たな試みによって、お米の可能性が開かれていくことが期待されます。

身近な生活用品に「お米のプラスチック製品」を
最後に、お米を使った製品開発のアイデアや、ライスレジンに対する期待について語り合いました。
奥田:これまでは「お米=食用」のイメージが強かったと思いますが、それ以外のものにも応用できるんですよね。用途が広がれば、生産方法も大きく変化しそうです。
石塚村長:ライスレジンの事業を知り、正直「すごくおもしろいな」と思いました。工業製品へ変わるという点に、意外性も感じましたね。例えば、医療機関で「お米由来の使い捨てマスクや手袋を使っています」となったら、おもしろいじゃないですか?食べるだけではない用途が広がっていくと、お米の未来もまた変わっていきそうです。
奥田:ありがとうございます。最後に、ライスレジンに期待していることについてお聞かせください。
石塚村長:ライスレジン製品が広がれば、米の需要も広がりますし、環境保全にも大きなメリットが生まれるでしょう。私たちとしても、ぜひ連携していきたいと思います。将来的には、指定ごみ袋への活用にもつなげたいですね。そのためにはJAなど、村役場以外の協力体制も整えながら、各関係者と一緒に取り組んでいきたいです。そのためにもライスレジン製品の魅力を、もっともっとPRしていきましょう!

対談を終えて
新篠津村は、大規模農業に欠かせないICT活用を積極的に導入し、新たな農業の可能性を模索しています。その可能性の一つとして「食用以外の米の生産」にも、ぜひチャレンジしていただきたいと感じました。「子どもたちにおいしいお米を食べてもらいたい」と願う農家さんは多く、工業用の米生産に抵抗を感じる方も少なくありません。しかし、お米の消費量が減少傾向にある中、美しい田園風景を次世代に残し、日本の食文化を継承していくには「生産量の維持」が重要になります。これからも新篠津村と連携を強化し、農業の発展に貢献していきたいです。