新潟県 南魚沼市 林 茂男 市長
プロフィール
明治大学政治経済学部を卒業後、石打丸山観光協会職員に。同会長、塩沢町観光協会長、塩沢信用組合理事を経て2009年から南魚沼市議会議員を2期務める。2016年に南魚沼市長に初当選。2024年からは3期目を務めている。

ライスレジンは、2019年より新潟県南魚沼市の全ての種類の「指定ゴミ袋」に採用され、「温室効果ガスの削減」や「市民の環境意識向上」を目指す取り組みの一環として、高い評価を受けています。今回は、日本を代表する米どころでもある新潟県南魚沼市 林市長に、お米由来の製品を活用している背景や、今後への期待について聞きました。
南魚沼市は「お米の聖地」。だからチャレンジする価値がある。
林市長がライスレジンと出会ったのは、南魚沼市長に初当選した2016年。「お米でプラスチックが作れる」と言われても、まったくピンと来ていませんでした。しかしよく考えてみると、南魚沼市は年間2万トン以上の米生産量を誇る「お米の聖地」。レジ袋有料化や、指定ゴミ袋制度の開始に先駆け「バイオマスプラスチック製ゴミ袋の導入」の検討・導入へ進むこととなりました。
ー導入の決め手は何だったのでしょうか?
林市長:2019年、南魚沼市はお米のプラスチックであるライスレジン製の指定ゴミ袋を全国に先駆けて導入しました。決め手は「南魚沼はお米の聖地なんだ」という誇りを、改めて思い出したことでした。「最終的にはすべて国産の原材料で、生産されるようになるのかもしれない」と思うと、ワクワクしたんです。
最初はバイオマス率10%のライスレジン製ゴミ袋でしたが、徐々にバイオマス率を引き上げ、2年後には25%へと進化しました。

市民の間にも少しずつ広まっていった「環境問題」への意識。
導入後、市民からはさまざまな反応が寄せられました。当初は「金額面への負担」について意見が寄せられると予想し、石油由来のゴミ袋と同様の「50円/1袋45L」に価格を設定。しかし、実際に多かった反応は「強度に関する問い合わせ」でした。
ー市民の皆さんからの反応は、いかがでしたか?
林市長:最も多かったのは「強度については大丈夫なのか?」という声でした。そこで担当部署である廃棄物対策課と連携し、強度の改良にも取り組んでもらいました。また、社会科見学で市長室に来てくれた子どもたちの反応も印象に残っています。室内に置いてある指定ゴミ袋を見て「これは何ですか?」と必ず質問してくれるんです。そこで「このゴミ袋は、お米からできているんだよ。みんなの家にもあるかな?」と話すと必ず、帰ってから確認し、親御さんに語ってくれます。家庭で話題に上れば、市民の興味関心は自然と広がり、環境意識も高まっていく。そうした広がりも、少しずつ始まっているようです。
結果として、現在はバイオマスプラスチック含有率は25%に上昇し、強度もアップしています。「市民の声と真摯に向き合い、実証を積み重ねてきた結果、信頼を獲得できた」と感じているそうです。

ライスレジンが社会課題解決のカギを握る。
食用には適さないお米を「アップサイクル」という形で再活用できれば、持続可能な農業が実現しやすくなる可能性も見えてきています。農業従事者の高齢化や、耕作放棄地の増加など、農業を取り巻く課題を解決することも期待できそうです。
ー昨今の「お米を取り巻く環境」は大きな転換期を迎えています。ライスレジンは社会課題を解決するための“選択肢”になり得るでしょうか?
林市長:そうですね。農業従事者が抱えている社会課題は、決して人ごとではありません。南魚沼市においても、起こり得ることだと考えています。農家さんが農業を続けていくためには、安定的な収入確保が非常に大切です。消費者においしいお米を食べてもらうのはもちろんですが、「食用として消費されなかったお米」に付加価値をつけ、どのようにビジネスへつなげていくかも考えていく必要があります。そういった意味では、ライスレジンはある種の「セーフティネット」として機能する可能性もあると思います。
例えば、南魚沼市は米どころであるがゆえに、気候変動が起こった際に「食用に適さないお米」が大量に出てしまう危険性もあります。最近では温暖化が進んだ影響で「暑さに強い品種を作ろう」という動きもありますが、やはりそうした対策には時間がかかってしまうもの。「使えなかったお米」を資源として存分に活用できる点は、ライスレジン製品を導入するメリットと言えるでしょう。
お米への熱い想いを、世界へと広めたい。
最後に、林市長からライスレジンに期待していることを語っていただきました。1つはインバウンドの増加により、ライスレジン製品の存在が知れ渡るチャンスが広がっているということ。ゴミ袋以外にも「お米でできたプラスチック製品」が、世界から注目を集めるのではないかと感じているそうです。そして2つめは、他の自治体・企業との連携による「想いの広がり」です。
ー「想いの広がり」とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか?
林市長:ライスレジンに込められた「お米によって社会課題を解決する」という想いを、より多くの人に広げるには「連携強化」がキーワードになります。2025年2月に「おにぎりサミット」に参加し、その重要性を改めて感じました。「おにぎりサミット」とは、一般社団法人おにぎり協会が主催するイベントです。日本の食文化である“おにぎり”を通じて、日本の地域をつなぎ、新しい価値を生み出し、国内外へ地域の魅力を発信するために、各自治体や食品会社などと連携しています。例えば、そのイベントで使用するトレイ、お皿、パッケージフィルムなど、あらゆるものをライスレジンでまかなうのはどうだろう?そうなれば、注目度はさらに高まるのではないか──参加者の1人として、そうしたアイデアが浮かびました。有名おにぎり専門店や、各自治体の首長、大手企業の担当者など影響力の大きい方々と連携することで、ライスレジンに込められた想いは広がっていくはずだと考えています。

対談を終えて
これからも、お米の聖地からライスレジンを活用した取り組みを続け、一歩ずつ前進を続けている林市長。CO2排出量削減、気候変動、農業などの社会課題を解決する「お米」の可能性を、南魚沼市から発信しようとする姿に勇気づけられました。今後も、課題解決に向けて伴走する良きパートナーとして提案の幅を広げていきたいと思います。