山陽物産株式会社 代表取締役 武内 英治 様
プロフィール
高校を卒業後、父が経営していた山陽刷子株式会社に入社。ホテル用歯ブラシなどの製造・販売に携わる。1992年に商事部門から独立し、山陽物産を設立。ホテルアメニティ全般の製造・販売を手がけるのはもちろん、業務用化粧品やリラックスグッズのOEM製造も展開している。
株式会社ライスレジン 代表取締役COO 奥田 真司
プロフィール
2006年に野村證券株式会社に新卒入社。富裕層向けのリテール業務や上場企業などの法人向けコンサルティング業務を経て、戦略企画業務に従事。2020年5月より、バイオマスレジングループに参画。バイオマスレジン南魚沼 取締役副社長に就任した後、2022年4月に社長執行役員に就任。2024年より株式会社ライスレジン 代表取締役COOに就任。

歯ブラシやヘアブラシなどのホテルアメニティを製造・販売している山陽物産株式会社。業界内でもいち早く「脱プラスチック」を目指し、プラスチック使用量の削減を積極的に推進しています。2020年には食用として消費されなかったお米を独自の技術でアップサイクルした環境素材「ライスレジン」を使用し、バイオマスアメニティの開発に成功。使用後に焼却しても、大気中のCO2増減に影響を与えないとして、環境商品であるバイオマス認定を受けています。今回は代表取締役の武内さんにライスレジンを導入した背景とそれにともなう社内外の変化について、ライスレジン代表取締役COO 奥田と行った対談をご紹介します。
20年以上売れなかった「お米の歯ブラシ」が注目の的に。
最初に武内さんがライスレジンの導入を考えたのは、1997年に採択された京都議定書がきっかけでした。温室効果ガスの削減目標の達成を目指すための国際条約が交わされる様子を見て、武内さんはすぐに「環境負荷を減らすために、何ができるだろうか」と考え始めます。当時、山陽物産が手がけていたアメニティのほとんどが、石油由来のプラスチックでできた製品でした。そこで、まずは「お米でできた歯ブラシ」を開発。しかし20年以上にわたってほとんど売れず、在庫を抱えていたそうです。受注につながったホテルは1件のみ。年間契約を結び、1年ごとに契約更新をしながら、細々と製造・販売し続けていました。この流れを大きく変えたのが、2020年に開催が予定されていた東京オリンピックでした。
奥田:SDGsに対する社会的な注目が高まり、多くのホテルが「脱プラスチック」へと関心を持つようになっています。ライスレジン製品の取り扱い量が伸びた背景には、東京オリンピックの影響もあったのですね?
武内社長:そうですね。世の中の流れに合わせて、当社でも商品をリニューアルしました。「お米の歯ブラシ」は約35%、「お米のヘアブラシ」は約20%のポリプロピレン削減を実現。それぞれのデザインも新しくし、紙製のパッケージに変えてイメージを刷新したんです。ところがコロナ禍を迎えてしまい、東京オリンピックは1年延期に。当社も大きな打撃を受けましたが、幸いなことに2022年4月にプラスチック新法が施行されることになりました。ちょうど施行の1年前から少しずつ問い合わせが増え、メディアにも取り上げられるようになったんです。そこから一気に「お米の歯ブラシ」の売上が100倍に増加。欠品が続きすぎて、新規商談を取りやめるほどに問い合わせが殺到しました。特に新法施行の1週間前後は「お米の歯ブラシをください!」と名指しで依頼が来ましたから。それまで全く売れなかったことを考えると、本当に驚きましたね。今では「お米の歯ブラシと言えば、山陽物産」と言われるまでのブランドに成長しましたし、環境に配慮した取り組みをしていることも高く評価いただいていると思っています。

社員のモチベーションを高めた新商品「ライスクリーン」
東京オリンピック開催や法改正によって、環境問題が社会的な注目を集め、山陽物産が手がけてきた製品へのニーズも高まりを見せるようになりました。
奥田:まったく注目されていなかった山陽物産の製品でしたが、今では年間5〜6件ほどテレビ・新聞などのメディア取材が入そうですね。製品自体が注目を集めるようになり、社内に大きな変化はありましたか?
武内社長:はい。新しいプロジェクトもスタートさせています。2025年4月には新たに「ライスクリーン」を開発し、発売しました。今回は、愛媛県や伊予銀行なども加わり、全面的にバックアップいただいて誕生した製品になります。県内の耕作放棄地で栽培した資源米から加工したライスレジンを50%配合し、プラスチック使用量を50%削減するなど、環境貢献度の高いものができあがったと自負しています。業界内での注目度も高まり、社員の元にも「また会社が取材されているね」と好意的な声が届くようになったそうです。また歯ブラシを導入いただいたホテル様からは、カミソリやヘアブラシなどの他のアメニティも含めてご依頼いただけるようになりました。
社員のモチベーションも上がり、組織活性化にもつながっていると感じているそうです。

原材料がすべて国産であることの強み。
奥田:武内さんは同業他社にも声をかけ、ホテルで出てしまうプラスチック製品の廃棄量削減にも取り組んでいますね。時代の変化に合わせ、さまざまな取り組みを実現してきた武内さんだから感じているライスレジンの魅力とは、何でしょうか?
武内社長:一般のプラスチック製品は100%石油から作られていますから、すべて原材料を輸入に頼っています。しかしライスレジンは国産の作物であるお米が原材料。その上、石油の使用量も削減できる。そこが、大きな魅力ですね。石油に代替できるものがあるならば、積極的に転換していった方が良いと思いますし、日本の農家を守ることにもつながります。今回手がけた「ライスクリーン」も、米作りから愛媛県内で行いました。1トンの収穫量で、歯ブラシ20万本が生産できる計算です。農家の皆さんも「全部買い取ってくれるので、安心して生産できる」とおっしゃっていました。
その一方で「課題」に感じているのが、製品に対するライスレジンの配合率です。現在は約50%ですが、60〜70%の配合率へと引き上げていくことを目標としています。しかしライスレジンの配合率が増えると、強度や見た目にも変化が。表面上に模様が出て色味が変わってしまうため、開発上の工夫がさらに必要になってきます。
奥田:「食用以外のお米を使用している」という、丁寧な説明も求められますよね。私たちも導入にあたり、「お米を使うこと」への疑問を投げかけられることもあり、理解を深めていただけるようコミュニケーションを大切に取るようにしています。
武内社長:おっしゃるとおりです。生産過程が分かれば、休耕田の活用などのメリットも伝わるのではないかと思っています。この取り組みが、結果として地域の農業全体を支えていることを広く伝えていきたいですね。5年間はライスレジンを生産し、次の数年間は食用のお米を生産する──そうした農業の展開も可能ですから。
奥田:結果として、失われた田園風景を取り戻し、お米の自給率向上にもつながっていくとの期待にもつながりますね。
歯ブラシ以外のアメニティにもライスレジンを。
2022年のプラスチック新法がきっかけとなり、大きな転換期を迎えた山陽物産。今後も、さらなるチャンスを求めて事業領域を拡大していこうとしています。
奥田:最後に、これから実現したいビジョンについて、教えてください。
武内社長:ホテルでのシェア率を伸ばしていくのはもちろん、ライスレジンの含有率50%を維持した歯ブラシを引き続き提供していきたいと思っています。そして歯ブラシ以外のアメニティにも、ライスレジン製品を活用したいですね。ヘアブラシやカミソリ、バス製品へと広げていければ嬉しいです。株式会社ライスレジンとも連携し、新商品の開発や販路開拓を積極的に進めていきたいと思います。

対談を終えて
環境を意識したアメニティを導入するホテルは、確実に増えてきています。社会的な環境意識が高まれば、ビジネスチャンスもさらに増えていきます。「原材料は、国産のライスレジン」という選択肢を当たり前にするために、チャレンジを続けている山陽物産。これからも、多くの人に「安心して使える製品の魅力」を届けていくことでしょう。